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第12話 春の予感

Author: 月歌
last update Last Updated: 2025-12-24 20:44:30

春が来た。

桜が咲いて、街が薄紅色に染まる。

私は、今日も会社に行く。

いつもの電車。

いつものルート。

でも——

去年とは、何もかもが違う。

スマホの目覚ましアプリは、もう入っていない。

蓮くんの声で起きることは、もうない。

普通のアラーム音で、目を覚ます。

それでいい。

康太は、三ヶ月前に東京に引っ越してきた。

渋谷に、とんぼ玉の雑貨店を開いた。

「美月のそばにいたいから」

そう言って、本当に東京に来てくれた。

引っ越しも手伝ってくれた。

今は、蓮くんが知らない場所に住んでいる。

蓮くんとの関係は切れた。

康太は何も言わない。

私も、何も言わない。

ただ、週に一度、一緒に食事をする。

たまに、康太の店を手伝う。

そんな、穏やかな関係。

でも——

最近、気づいた。

康太の笑顔を見ると、胸が温かくなる。

康太の声を聞くと、安心する。

康太がそばにいてくれると、怖くない。

これは、何だろう。

ある日、康太の店に行った。

桜が満開の、土曜の午後。

「美月、来たのか」

康太が笑顔で迎えてくれる。

「うん。手伝いに来た」

「ありがとな」

店番を手伝いながら、ふと窓の外を見る。

桜が、風に揺れている。

「綺麗だな」

康太が隣に立つ。

「うん……」

二人で、しばらく桜を見ていた。

「美月」

康太が口を開く。

「ん?」

「お前、最近笑うようになったな」

「……そう?」

「ああ。前は、無理して笑ってる感じだったけど」

康太が私を見る。

「今は、自然に笑ってる」

その言葉が、胸に染みた。

「……康太のおかげだよ」

「俺?」

「康太が、ずっとそばにいてくれたから」

振り返って、康太を見る。

「ありがとう」

康太が少し照れたように視線を逸らす。

「礼なんていいよ。俺、美月のこと……」

言葉を切る。

「美月のこと?」

「……いや、なんでもない」

康太が頭を掻く。

その仕草が、優しくて。

温かくて。

——好き。

その感情が、静かに芽生えていることに気づいた。

でも、まだ言えない。

まだ、怖い。

「康太」

「ん?」

「私……もう、大丈夫だよ」

康太が、私を見る。

「蓮くんのこと、まだ完全には忘れられないかもしれない。怖い夢も、まだ見る。でも……」

言葉を選ぶ。

「前を向いて、歩けるようになった」

康太が微笑む。

「そっか」

「だから……」

何を言おうとしてるんだろう。

自分でもわからない。

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